【数学の考え方(全六回)】第一回 たし算・かけ算から学ぶ計算のしくみ ~アタリマエを疑う~
広大な世界へ…
このコーナーでは、少し難しく、興味深く、面白い内容を取り扱います。
かけ算の順序問題
皆さんは「かけ算の順序問題」をご存じでしょうか?
Q. リンゴが3個ずつ入った袋が全部で4袋あります。リンゴは全部でいくつありますか?
A1. 3×4=12(個)
A2. 4×3=12(個)
A1とA2はどちらも同じ答えを導き出していて、両方正解に見えます。
かけ算の順序問題は、ある小学校の教員がA2の解答にバツをつけたことから勃発しました。
具体的な内容は以下の動画やリンクを参照してください。
とある東大生はかけ算に順序が必要だと考えます|Nao Harada|note

上記の通り、いろいろな意見があります。
一概にどちらが正しいとは言えませんが、私はこの問題については先ほどの問題と同様に「考える意味がない」と思っています。
それらは定義の問題で、人によって意見が変わってくるのは明々白々です。
皆さんはどう考えますか?
複素数の世界
私たちは数の世界の旅を通じて、実数の世界までを旅してきました。
このようなプロセスで、数の世界は様々に広がって行きます(自然数→整数→有理数→実数→・・・)。
しかし、ある意味で「数の世界の終着点」は存在します。
それは「複素数」という数です。
複素数の定義
2乗すると -1 になる新しい数を1つ考えて、これを文字 i で表し、虚数単位という( i^2 = -1 )。
2つの実数 a,b を用いて a + bi の形に表される数を複素数という。
複素数というと、素数と関係がありそうな響きですが、全く関係ありません。
2つの実数、つまり、複数の要素から構成される数なので、日本語では「複素・数」と呼ばれています。
「複・素数」ではないので、気を付けてください。(英語ではcomplex numberと言います。)
Q. なぜこの数がある意味で「数の世界の終着点」なのでしょうか?
A. 複素係数一変数多項式が複素数の根(解)を持つ(代数的に閉じている)から。
上記の回答はわかりにくいので、なるべくかみ砕いて説明すると、
A.の説明
数学には「代数学の基本定理(Wikipedia)」という、とても有名な定理があります。
その定理の内容は「次数が1以上の任意の複素係数一変数多項式(係数が複素数で、変数が1つの多項式)には、複素根が存在する。」というものです。(ちなみにこの内容から「n次の複素係数一変数多項式はn個の解をもつ」ことが帰納的にわかります。)
「代数学の基本定理」は、複素数の集合が「代数的に閉じている」ことを主張しているのです。
つまり、複素数は「代数的に閉じている(代数的閉体)」です。
上記の説明もさっぱりですよねww
本当に、ごくごく単純に説明すると、
俺らが良く目にする「方程式(多項式)」の解は、ゼッテー複素数ってマジ?
だから俺らは複素数より”デッケー”数に学校で出会わなかったんか~
じゃあもう複素数が「数の世界の終点」ってことでヨくね??
というような感じです。(大真面目)
虚数単位 i については別の記事を出すのでお楽しみにしてください。
群・環・体について
先ほどは、演算がある集合について閉じていることが必要だと述べました。
この考え方は、現代数学の源泉である「群・環・体」の理論へとつながっています。
この理論を一言で説明すると、
「数学(主に代数学)のエッセンスを抽出したことで、幅広い応用が利く理論」
です。
以下に、演算の正確な定義と群環体それぞれの定義を述べます。
定義が難しく感じる方は、群環体の具体例だけでも確認してみてください。
(抽象的な物事を学ぶ際は、具体例を確認することが上達への最短ルートですよ!)
演算の正確な定義
X が集合であるとき、写像 phi : X times X to X のことを集合 X 上の演算という。混乱の恐れがない時には、 phi(a,b) の代わりに ab と書く。
群の定義
G を空集合ではない集合とする。 G 上の演算が定義されていて次の性質を満たすとき、 G を群という。
- 単位元と呼ばれる元 e in G があり、すべての a in G に対し ae = ea = a となる。
- すべての a in G に対し b in G が存在し、 ab = ba = e となる。この元 b は a の逆元とよばれ、 a^{-1} と書く。
- (結合法則) すべての a,b,c in G に対し、 (ab)c = a(bc) が成り立つ。
群の具体例:
G = 整数、有理数、自然数の集合は通常の加法により可換群(交換法則が成り立つ)
G = (0を除いた)有理数、実数の集合は通常の乗法について可換群
環の定義
集合 A に二つの演算 + と times (加法・乗法、あるいは和・積)が定義されていて、次の性質を満たすとき、 A を環という。以下、 a times b の代わりに ab と書く。
- Aは+に関して可換群になる。
- (積の結合法則) すべての a,b,c in A に対し、 (ab)c = a(bc) 。
- (分配法則) すべての a,b,c in A に対し、 a(b+c) = ab + ac 、 (a+b)c = ac + bc
- 乗法についての単位元 1 がある。つまり、 1a = a1 = a がすべての a in A に対して成り立つ。
環の具体例:
整数の集合は通常の加法と乗法により環
一元集合 :A = {0} を、 0 + 0 =0 、 0 times 0 = 0 と定義すると、 A は環である(零環、自明な環)
体の定義
集合 K に二つの演算 + と times (加法・乗法、あるいは和・積)が定義されていて、次の条件を満たすとき K を体という。
- 演算 +,times により K は環になる。
- 任意の K in a neq 0 が乗法に関して可逆元である(逆元が存在する)。
体の例:
有理数、実数の集合は通常の加法と乗法により体であり、それぞれ有理数体、実数体という
(上記の定義に「加法」や「乗法」が出てきましたが、これらは一般の(任意の)演算で、定義によって変わります。)
Q. 複素数はどのような演算について、群・環・体のどれを成すでしょう?
まとめ
今回のキーポイント
- 四則演算の順序をcheck!
- ある集合 S について演算が閉じているとき、 S 上で演算が定義できる
- 自分が「アタリマエ」だと思っていることを常に疑う → 科学的な精神
- 「複素数」がある意味での「数の世界の終点」
最後までご覧いただきありがとうございました。
次回の記事もお楽しみに!
参考文献
wikipediaいろいろ
いらすとや
数の起源
http://www7a.biglobe.ne.jp/~number/page1.html
ニコニコ大百科
https://dic.nicovideo.jp/a/6%C3%B72%281%2B2%29
高校数学の美しい物語
その他文中のリンク
数研出版『数学2』
雪江明彦著『代数学1 群論入門』