【数学の考え方(全六回)】第一回 たし算・かけ算から学ぶ計算のしくみ ~アタリマエを疑う~

2021-07-30

整数とひき算の世界

自然数の世界で少し寄り道をしていました。

今度こそ新しい世界へと向かいましょう!

ひき算に関する問題です。

Q. (自然数)-(自然数)は自然数でしょうか?

A. 自然数とは限らない

3-2=1

5-9=? etc.

自然数の世界のみでひき算をしているので、1(または0)より小さい数は存在しません

上の例から、ひき算が自然数の世界だけでは成り立たないことが分かったと思います。

先ほどの用語を用いると、自然数の世界はひき算について閉じていません

つまり、自然数の世界の中でひき算は定義できないのです。

これは不便。寒さを温度で表すことも、家計のやりくりもできません。

そこで人類は「自然数の世界をより使い勝手のいい(ひき算ができる)数の世界に広げよう!」と考えました。

この「便利になりたいよう」という感覚が、数学の情緒というものです。

そして試行錯誤のもと、自然数と負の数で作られた整数の世界を発見しました。

(現代人は負の数に対して抵抗を感じないが、「人間は考える葦である」の格言で有名な大天才パスカルでさえ、負の数の概念は理解できなかった。)

ブレーズ・パスカル

整数とは

「0 とそれに 1 ずつ加えていって得られる自然数 (1, 2, 3, 4, …) および 1 ずつ引いていって得られる数 (−1, −2, −3, −4, …) の総称」

のことです。

ですから、整数の世界は自然数の世界を含んでいます。

(日本では正の整数(1,2,3,4,etc.)を自然数と定義しているが、フランスなどでは非負整数(0,1,2,3,etc.)を自然数と定義している。面白い!)

整数の世界でのひき算を確認しましょう。

Q. (整数)-(整数)は整数でしょうか?

A. 常に整数

4-4=0,

2-7=-5 etc.

新しい整数の世界では、ひき算ができるようになりました。

整数の世界はひき算について閉じている、つまり、整数の世界の中でひき算は定義できるというわけです。

同様に、整数の集合はたし算・かけ算についても閉じています

つまり、整数の集合上でたし算・かけ算・ひき算は定義できます

こうして私たちは、自然数よりも使い勝手の良い「整数」を手に入れることができました。

有理数とわり算の世界

私たちはより広大な整数の世界を冒険しました。

最後はわり算です。

果たして、整数の世界でわり算はできる(整数の世界はわり算について閉じている)でしょうか?

Q. (整数)÷(整数)は整数でしょうか?

A. 整数とは限らない

6÷3=2

5÷3=? etc.

整数の世界で計算しているので、小数や分数は存在しません。

上の例からわかるように、わり算は整数の世界だけでは成り立たないのです。

ここで再び登場するのが「もっと便利になりたいよう」という数学の情緒です。

そして試行錯誤して、私たちは有理数の世界を発見します。

有理数とは、整数の比で表される数、つまり分数のことです。

整数は分数としても表せる(〇〇分の1)ので、有理数の世界は整数の世界を含んでいます。

わり算を有理数の世界で確認してみましょう。

Q. (有理数)÷(有理数)は有理数でしょうか?

A. 常に有理数

1÷2=1/2=0.5

5÷3=5/3=1.666666… etc.

さらに新しい有理数の世界では、今まではできなかったわり算ができるようになりました。

有理数の集合はわり算について閉じているというわけです。

同様に、有理数の集合はたし算・かけ算・ひき算についても閉じています。

つまり、有理数の世界の中で四則演算が定義できるのです。

こうして私たちは、整数よりも使い勝手の良い有理数を手に入れることができました。

無理数、そして実数へ…

旅もそろそろ終盤。ラストスパート!

学校では数の大小関係などについて学ぶとき、よく数直線が用いられます。

数直線

私たちは現在、有理数の世界まで探検してきました。

数直線と有理数に関する次の問題は非常に重要です。

Q. 有理数のみで数直線上の数を取りつくすことができるか?

A. できない

なんと数直線上には、無理数という有理数でない数が存在します!

(無理数の例)

√2(ルート2)=1.41421…

円周率π=3.14159…

自然対数の底e=2.71828… etc.

この無理数という数は有理数のように分数として表記することができません。

高校では、背理法を使う練習として「ルート2が無理数であることの証明」がよく取り扱われていますね。

この無理数の世界と有理数の世界を合わせると、実数の世界が現れます。

(有理数ではない実数を無理数と定義したほうが自然。有理数の世界を「完備化」して実数の世界にする、のように考えると現代的。)

さらに広がった実数の世界では、数直線上の数を取りつくすことができるのです。

このことを数学では「実数の集合と数直線上の数は一対一対応している」といいます。

数直線 \neq 実数

ではないので気を付けてください。

(自然数を導入する際に用いた具体例は、あくまで「自然数」と「各言語の数を表す言葉」を一対一対応させているだけ)

一対一対応のイメージ画像

実数の集合が四則演算(たし算、ひき算、かけ算、わり算)について閉じていることは簡単に確かめられます。

最後に【数学の考え方】第二回へと続く内容の問題を残して、今回の旅を終えましょう。

Q. 有理数の世界でも実数の世界でも四則演算は定義できます。

この二つの世界は、どのような点で決定的に違うのでしょうか?

長旅お疲れ様でした。

計算(演算)とは何か?

数の世界の旅を通して皆さんに知って欲しかったことは、ズバリ

計算とは何か?

ということです。

私たちが日々「アタリマエ」に使っている(使ってしまっている)計算の根拠や計算できる理由が、この旅を経験して少しは実感できたでしょうか?

(この記事では「計算」から「世界」を定義したが、本来の数学では「世界」から「計算」が定義される。)

今回のような「アタリマエを掘り下げる」という行為は、科学的な精神に他なりません。

常日頃

「アタリマエとは何か?」

について考えながら生活をしていれば、皆さんの目の前にはまったく新しい世界が広がっていることでしょう。