【数学の考え方(全六回)】第一回 たし算・かけ算から学ぶ計算のしくみ ~アタリマエを疑う~

2020年5月14日

整数とひき算の世界

私たちは現在、自然数の世界まで冒険しました。

こんどは、自然数の世界でひき算をしてみましょう。

3-2=1

5-9=? etc.

Q. (自然数)-(自然数)は自然数でしょうか?

A. 自然数とは限らない

自然数の世界のみで計算しているので、1(または0)より小さい数は存在しません。

このように、ひき算は自然数の世界だけでは成り立ちません。

この場合、自然数の集合はひき算について閉じていないといいます。

閉じていないとき、自然数の集合上でひき算は定義できないのです。

これは不便です。家計のやりくりもできません。

現代人は負の数の概念に対して抵抗を感じないかもしれませんが、「人間は考える葦である」で有名な大天才パスカルでさえ、負の数の概念は理解できませんでした。

ブレーズ・パスカル

そこで私たちは、自然数の集合をより使いやすい(ひき算ができる)数の集合に進化させようと考えます。

この「便利になりたいよう」という感覚が、数学の情緒というものです。

そして私たちは試行錯誤して整数の世界を発見します。

整数とは「0 とそれに 1 ずつ加えていって得られる自然数 (1, 2, 3, 4, …) および 1 ずつ引いていって得られる数 (−1, −2, −3, −4, …) の総称」のことです。

ですから、整数の世界は自然数の世界を含んでいます。(自然数の集合 [tex:subset] 整数の集合)

整数の世界で、ひき算はできるのでしょうか?

Q. (整数)-(整数)は整数でしょうか?

A. 常に整数

新しい数の世界である整数の世界では、ひき算ができるようになりました。

整数の集合はひき算について閉じている、つまり、整数の集合上でひき算は定義できるというわけです。

同様に整数の集合はたし算・かけ算についても閉じています

つまり、整数の集合上でたし算・かけ算・ひき算は定義できます

こうして私たちは、自然数よりも使い勝手の良い整数を手に入れることができました。

有理数とわり算の世界

私たちは、自然数の世界を含む、より大きな整数の世界を手に入れました。

今度はわり算です。

果たして、整数の世界でわり算はできる(整数の集合について閉じている)でしょうか?

6÷3=2

5÷3=? etc.

Q. (整数)÷(整数)は整数でしょうか?

A. 整数とは限らない

整数の世界で計算しているので、分数は存在しません。

なので上の例からわかるように、わり算は整数の世界だけでは成り立ちません。

わり算は自然数の世界でも同様の理由で成り立ちません。

ここで再び登場するのが「もっと便利になりたいよう」という数学の情緒です。

そして試行錯誤して、私たちは有理数の世界を発見するわけです。

有理数とは、整数の比で表される数、つまり分数のことです。

なので、有理数の世界は整数の世界を含んでいます。(整数の集合 subset 有理数の集合)

有理数の世界で、わり算はできるのでしょうか?

Q. (有理数)÷(有理数)は有理数でしょうか?

A. 常に有理数

より新しい数の世界である有理数の世界では、わり算ができるようになりました。

有理数の集合はわり算について閉じているというわけです。

同様に、有理数の集合はたし算・かけ算・ひき算についても閉じています。

つまり、有理数の集合上で四則演算は定義できるのです。

こうして私たちは、整数よりも使い勝手の良い有理数を手に入れることができました。

無理数、そして実数へ…

数の世界の冒険も、もうそろそろ終盤。ラストスパートです!

学校では数の大小関係などについて学ぶとき、よく数直線が用いられます。

数直線

私たちは現在、有理数の世界まで冒険してきました。

Q. 有理数のみで数直線上の数を取りつくすことができるか?

A. できない

なんと、数直線上には無理数という、整数の比で表すことのできない数が存在します!

(無理数の例)

sqrt{2}=1.41421…

円周率π=3.14159…

自然対数の底e=2.71828… etc.

学校では、背理法を使う練習として「ルート2が無理数であることの証明」がよく取り扱われていますね。

この無理数の集合と有理数の集合を合わせると、実数の集合になります。

(有理数ではない実数を無理数と定義したほうが自然。有理数の集合を「完備化」して実数の集合にする、のように考えると現代的。)

有理数の集合が進化した実数の集合は、数直線上の数を取りつくすことができます。

このことを、数学の言葉では「実数の集合と数直線上の数は一対一対応している」と言います。

数直線 = 実数 ではないので気を付けてください。

一対一対応のイメージ画像

実数の集合が四則演算(たし算、ひき算、かけ算、わり算)について閉じていることは簡単に確かめられます。

Q. 有理数の集合上でも実数の集合上でも四則演算は定義できます。

この二つの集合は、どのような点で決定的に違うのでしょうか?

長旅お疲れ様です。

数の世界の冒険はひとまずここでおしまい。

計算(演算)とは何か?

数の世界の旅を通じて、知ってもらいたかったことは、

計算とは何か?

ということです。

私たちが日々「アタリマエ」に使っている(使ってしまっている)計算の根拠・計算できる理由が、この旅を通じて少しは実感できましたか?

(今回はわかりやすさ重視で「演算」から「集合」を見つけましたが、本来は「集合」から「演算」が定義されます。)

今回のような「アタリマエを掘り下げる」行為は、科学的な精神にほかなりません。

常日頃「アタリマエとは何か?」について考えながら生活をすると、まったく新しい世界が見えてくることでしょう。