長岡 『東大の数学入試問題を楽しむ』を読んでみた

2021-02-11

私の通う学校の数学の副教材「スタンダード(数研出版)」にも、この問題は載っていました。

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しかし、初めてこの問題の解答を読んだとき、なかなか納得できませんでした。

姉に聞いてみると、「これは典型問題だ」とそっけない返事。

その場では「そうなんだ」と答えましたが、本に載っている解答例からは「答えの正しさの根拠」が感じられず、私は困惑しました。

実はこの問題、1954年に東京大学で出題された問題なんです!

通りで「形式的な理解では到達できないより深い理解」が必要だと感じ、。

東京大学には、典型問題という言葉はほぼ通用しません。

この問題は「伝説的名作」と呼ばれるほどに、当時の受験数学界の様相を一変させたものでしたが…

今や、基本的な参考書にはたいてい掲載されている典型問題となり果ててしまいました。

この50年間で、一体何が起こったのでしょう?

形骸化の原因は、この問題があまりにも「目新しい」問題であったことです。

この「目新しさ」が入試の花形、つまり「二番煎じの難問」ブームを引き起こしたわけです。

入試の花形が生まれると同時に、低俗な「受験対策」サービスが生まれることになります。

伝統は、風化堕落の危険に常にさらされているという訳ですね。

これについては第8話「偉大な伝統ですら避けられない風化」にも書かれているので、気になる方は是非読んでみてください。

第9話 理系 vs. 文系?!

高校生にとって「理系文系か?」という問いは、様々な場面で登場するとてもセンセーショナルな議題です。

どちらが「優れているか(頭が良い、能力が高いetc.)?」などを、理系文系で区別して考えている人も一定数いるのも事実。

「理学部は就職無理学部」「数学が苦手だから文系」などのステレオタイプ思考が、日本では至る所に見られます。

(現在私が通っている学校でも、「理系・文系の"見えない壁"」が絶賛建設中)

「理系」と「文系」の対立構造は、本当に必要でしょうか?

筆者はスノー著「2つの文化と社会革命」の有名な箇所を原文で引用して、このように述べました。

A good many times I have been present at gatherings of people who, by the standards of the traditional culture, are thought highly educated and who have with considerable gusto been expressing their incredulity at the illiteracy of scientists. Once or twice I have been provoked and have asked the company how many of them could describe the Second Law of Thermodynamics. The response was cold: it was also negative. Yet I was asking something which is about the scientific equivalent of : Have you read a work of Shakespeare’s ?

(中略)

「数学が苦手だから文系」「英語が嫌いだから理系」といった進路選択が一部にあると聞くが、そのような主張が馬鹿げていることを知ってもらうためには、こういう「英語」で「理解」するとはどういうことなのか考えていただけば十分であろう。実際、単なる英語好きの「文系」ではスノーの嘲笑の的になるのが関の山、単なる「理系」では、この程度の短文ですら手も足も出ないであろうからだ。

(中略)

実は、今日、「理系 vs. 文系」という分類自体が、すでに古くさい。

長岡亮介著「東大の数学入試問題を楽しむ 第9話」より引用

文章の通り、単なる数学好きで英語嫌いの「理系」である私は、この英文に手も足も出ませんでした。反省。

知識の細分化が進んだ現在、スペシャリストは地球上に数えきれないほど多く存在します。

生物学も「細胞生物学分子遺伝学分子生物学進化生物学生態学」などの分野に細分化されています。

このように、現在の学問は縦方向に深くなっていますが、横方向のつながりが失われてしまう可能性を常に孕んでいます。

はるか昔の偉人たちは、いろいろな学問を兼任していました。

アルキメデスは、数学者、物理学者、技術者、発明家、天文学者であり、

レオナルド・ダ・ヴィンチは、音楽、建築、絵画、数学、解剖など、様々な分野で顕著な成果を残しています。

昔は現在ほど学問が専門性を帯びていませんでしたが、それでもなお、幅広い教養の大切さは今も訴えられ続けています。

大学1年次などの教養科目の必要性はここにあるのでしょう。

グローバル化機械化AIの進化が進む中で、人間として本当に必要な能力とは何なのか?

是非皆さんも、この本を手に取って考えてみてください。

第31話 数学の勉強についての誤解が生まれる根拠について

数学に関して世間であまり理解されていないと思うことに、「与えられた問題を解ける」ことと「数学が分かっている」ことの間には、時に意外に大きな溝がある、ということがある。入試問題のようなものは、「数学がしっかりわかっていれば、しばしばたやすく、たまには少々の時間がかかることはあっても必ず解ける」のであるが、数学が一般の人に誤解されている点の1つは、この逆が成り立たないこと、つまり、与えられた問題が解けたからと言って本当に分かっているとは限らない、ということである。

長岡亮介著著「東大の数学入試問題を楽しむ 第31話」より引用

数学に限らず、あらゆる物事に対して、「できる」「わかる」の大きな溝に直面する場面があります。

これは私の趣味であるYouTubeの話になるのですが、

音楽グループ兼YouTubeグループである「レペゼン地球」のメンバー「DJ社長」は、将来社長になるために、とある大学の経営学部に進学しました。

しかし、そこで彼は「教授は経営のノウハウは教えられる"先生"だが、会社を経営している"社長"ではないんだ!」という気付きを経験します。

そして、実際に会社を経営している社長に会いに行き、社長になるためのノウハウなどを、直接教えてもらいました。

皆さんもこのような「似ているけれども違う概念・場面」に出会ったことはありませんか?

どこで「わかる」「できる」に変わるのか?

というのは非常に難しい問題です。

というか、「わかる」が「できる」に変わる瞬間なんて実際には存在しないでしょう。

なぜなら、私たちの住む世界の時間は連続だからです。

連続的な変化・存在が、私たちの世界が私たちの世界である所以です。

また「わかること」は「できること」の十分条件ですが、必要条件ではありません。

(このような日本語の言い回しでも、数学の概念は役立つので、皆さんも是非積極的に使っていきましょう笑)

手引き

この章では、本書に載っている問題の解答とは違う「オリジナルの別解」について紹介・解説していきます。

第41話 小さなムラを出て《大きな世界》へ

1996年度理科第3問

問題は著作権の都合上、下記のリンク先でご覧ください。

(1)は、球面上の接平面より上側が、その点から見える空間です。(問題の文末にもきちんと数学的に定式化されています。私たちの感覚と経験からも、これは正しい定式化ですね。)

問題は(2)です。

リンク先の解答例では、適切な式変形をある意味愚直に施していき、答えを求めています。

もちろんその解答でもいいんですが、それだけでは味気ないので、

「厳密でない直感に即した考え方」

をここでは紹介します。

なお、きちんとした解答は提示しないので、気になる方は自力で解答を構成してみてください。(要望があれば、後で解答を追加します)

問題を解く際に肝要となる「設定の言いかえ」を、今回の問題に適用すると

立方体の8個の頂点を点光源として、球面上に光を照射する。

このとき、球面上のどの点も二重(以上)の光で照らされるには、立方体の一辺と球の半径の比をどのようにすればよいか?

となります。

図1 (2)を満たさない
図2 (2)を満たさない
図3 (2)を満たす!

適切に言いかえてしまえば、後は計算あるのみです。

S上の点Pから立方体の頂点を見るのではなく、立方体の頂点から見える範囲を球面S上で描写する

このような逆転の発想は、数学に限らず様々な物事に対しても非常に有効です。

皆さんも何らかの壁にぶつかったときは、逆転の発想を是非心掛けてみてくださいね!

まとめ

今回のキーポイント

  • 東京大学を目指す人にはもちろん、全人類に読んでほしい本。
  • 「数学」の本質を探し出す、壮大なストーリー
  • 現代社会への問題提起から学ぶ、多種多様な観点

最後までご覧いただきありがとうございました。

次回の記事もお楽しみに!

参考文献

東大の数学入試問題を楽しむ(本) – 日本評論社

東大の数学入試問題を楽しむ|日本評論社

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/6116.html

長岡亮介 – お茶飲みwiki

https://pchira.wicurio.com/index.php?%E9%95%B7%E5%B2%A1%E4%BA%AE%E4%BB%8B